ウェルビーイングとは?
ウェルビーイングという言葉を聞いたことがあるでしょうか。働き方改革の取り組みが活発化し、このウェルビーイングという言葉を耳にする機会が増えてきました。英語ではWell-beingと書き、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを表す言葉です。ウェルビーイングは、ポジティブ心理学でのテーマの1つとして扱われています。また、名前の通り、beが進行形のbeingであることから一時的なものではなく、ずっと続いている「持続的な」幸せを表しています。このウェルビーイングはSDGsでも言及されており、年々重要度が高まってきているワードです。ぜひともこの記事をご参考にしていただけたらと思います!
ウェルフェアとの違い
ウェルビーイングと似た言葉にウェルフェア(welfare)がありますが、これは福祉や福利厚生といった意味をもちます。ウェルの部分は同じでも、意味は少し異なっています。ウェルフェアは社会をよくするための「手段」であるのに対し、ウェルビーイングは行きつく状態、すなわち「目的」に近しいものを表しています。別の視点で言い換えると、ウェルフェアは社会全体の幸福へ焦点が向けられている言葉であるのに対し、ウェルビーイングは社会の構成員1人1人の幸福へ焦点が向けられている言葉です。
ウェルビーイングを測る指標
ウェルビーイングを測る要素や指標は複数存在しますが、ここでは、最もメジャーな2種類の構成要素と指標についてご紹介します。
【ギャラップ社】の5つの構成要素
アメリカのコンサルティングファームのギャラップ社によって提唱されたもので、ウェルビーイングは下記の5つの要素によって構成されているとしています。
- Career well-being(キャリア):仕事だけでなく、生活を含めた総合的なキャリアの幸福度
- Social well-being(ソーシャル ):家族、友人、恋人などの人間関係に関する幸福度
- Financial well-being(フィナンシャル):収入、資産形成などの経済的な幸福度
- Physical well-being(フィジカル):心身の健康に関する幸福
- Community well-being(コミュニティ):家族、学校、職場など所属コミュニティでの幸福度
【PERMA理論】の5つの指標
先ほどはウェルビーイングの構成要素についてご紹介しましたが、これは、アメリカのポジティブ心理学の心理学者であるマーティン・セリグマンによって提示された、幸福度の高さを測る指標になります。
- Positive Emotion(ポジティブ):嬉しい、面白い、楽しいなど前向きな感情
- Engagement(エンゲージメント):何かに夢中になる、没頭する
- Relationships(リレーションシップ):良好な対人関係
- Meaning and Purpose(ミーニング&パーパス):生きる意味、人生の目標
- Achievement(アチーブメント):何かを達成する、成し遂げる
なぜ注目されているのか
働き方改革の推進
かつてウェルビーイングは社会福祉・医療といった分野で、フィジカルやコミュティに関するウェルビーイングを意識するために多く用いられる言葉でした。しかし、社会において「価値観の多様化」や「働き方改革」などが促され、キャリアでのウェルビーイングにも焦点が当てられるようになりました。そのため、時代とともにキャリアプランが多様化する中、それぞれの価値観とマッチする魅力的な労働環境を同時に整備することが必然的に求められています。企業は、どのような働き方であれば従業員の幸福度が増すのか?をますます議論し、迅速に環境整備をしていかなければなりません。企業側が優秀な人材を確保したい場合にはなおさらのこと、働きやすい労働環境、好条件の待遇を提示する必要があるといえます。
人材不足と人材の流動性
日本では、今後も少子高齢化が加速し、中長期的に見て深刻な人材不足に陥ることが予測されています。そんな中、生産性が低いとされる終身雇用制度はもはや崩壊しつつあります。また、このような終身雇用の崩壊と価値観の多様化が相まり、転職をすることで納得のいくキャリアを積む方法が一般的となりました。
このような人材の流動性の高まりを背景として、企業は利益追求だけでなく、従業員やその家族の幸福追求をしていく姿勢が求められるようになっています。
従業員やその家族の幸福追求をすることで、その企業に対する帰属意識やロイヤリティが高まって、他の企業へ流れてしまうのを防ぐことにつながるから大事なんだよね!
SDGsでの言及
ウェルビーイングは近年注目されるSDGs(エスディージーズ)とも関係しています。SDGsとは、国連サミットで採択された17の開発目標と169のターゲットからなる国際的な目標のことです。この17の目標では、人々が健康的(身体的な幸福)に、やりがいのある仕事(精神的な幸福)に就いて、平等で平和(社会的な幸福)に暮らせる社会を目指しており、これはウェルビーイングの構成要素と合致しています。新たな国際社会全体の開発目標が掲げられたことにより、課題がより細分化され、その結果として個人の幸福追求が改めて注目されるようになったと考えられます。
※ SDGsとは” Sustainable Development Goals” の略。日本語では「持続可能な開発目標」と訳される。
取り組むメリット
ワークエンゲージメントの向上
ウェルビーイングに取り組むメリットの1つは、ワークエンゲージメントを高められることです。エンゲージメントとは、没頭できる状態のことをあらわします。つまり、ワークエンゲージメントとは、仕事・企業に対して誇りや価値を感じ、仕事に打ち込む状態をいいます。仕事に没頭するためには、モチベーションを保つための「やりがい」の部分がカギとなります。
生産性の向上
上記のワークエンゲージメントが向上した状態にある人は、ネガティブな感情を持ちにくいです。というのも、自分の持つスキルや経験を最大限活かしたい!と思うためです。また、この姿勢は、仕事の効率化にも大きく寄与することが予想できます。つまり、職場内でワークエンゲージメントが向上している人が多いほど企業の生産性は上がっていくことになります。これは、結果として企業価値を高めることにもつながっていきますね。
人材獲得・定着率の向上
企業のウェルビーイングの実現に積極的な姿勢は、就労希望者にとってはこの上なく魅力的に映るはず。なぜならば、自分がもしこの会社で働いたら、どのような環境で、どのような仕事をして、どのようにキャリアを積んでいくのか?というビジョンがより明確になるからです。また、それ以上に、自分が苦痛に思う仕事や劣悪な労働環境への不安を最小限に抑えることができ、安心して仕事に打ち込める環境があると前もって知ることができるからです。
企業イメージの向上
従業員のウェルビーイングを促す企業への社会的評価は、年々高まっています。例えば、従業員の健康を重視する企業への社会的評価が高まるよう経済産業省は「健康経営優良法人認定制度」を制定しています。
その他の例では、厚生労働省が子育てサポートをする企業の評価が高まるよう「くるみんマーク認定」の実施をしています。これら2つの事例のように従業員のウェルビーイングをあと押しする企業は、前向きに社会活動に取り組んでいるとして、社会的に評価されるようになります。
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ウェルビーイング経営を実現するために
企業の事例
具体的に、企業ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。ここでは、知らない人はいないほど有名なGoogle(グーグル社)の事例をご紹介します。グーグルは自社がインターネットサービス事業を展開していることから「デジタルに翻弄されることなく、生活の質を高める」という課題を見出しました。また、この課題を解決するために、デバイス利用の習慣を管理し、デジタルから解放される時間を作り出すアプリを自社開発しました。これをグーグル側はデジタルウェルビーイングと名付けています。デジタルウェルビーイングには下記のような機能が備わっています。
- 集中したいときにアプリを一時停止できる
- メールに優先順位を付けて通知数を減らす
- 利用時間を管理する
- YouTubeをカスタムして休憩を促すメッセージを出す
- タイマーで、アプリの 1 日の利用時間の上限を設定できる
グーグルでは、常にデジタルに囲まれたストレスフルな環境から放たれるような工夫を施し、従業員がオフラインの状態での幸福度を高めることで、心身の健康をサポートしています。
従業員家族のサポート
従業員のみのサポートに目が向けられがちですが、さらにもう一歩踏み入ったところの「従業員家族へのサポート」をすることもウェルビーイング経営の1つです。例えば、要介護の家族を持つ従業員が、無期限で介護休業を取れる制度を盛り込むといった事例が挙げられます。
男女共同参画の促進
先ほど事例でご紹介した「くるみんマーク認定」のように、少子高齢社会においても若い世代の男女が子育て・介護をしながら働き続けることができる環境整備をすることは、ウェルビーイング経営に該当します。これは、近年徐々に増えている形態です。
ワークライフバランスの推進
仕事と私生活のどちらかに偏りがある状態では、どうしても悪循環に陥りがちです。仕事と生活のバランスを上手に保ち、相互に作用させることで好循環をもたらす必要があります。このような好循環を生み出すために、テレワーク、フレックスタイムといった勤務地・勤務時間に関する体制を整えることで、企業としてワークライフバランスを推進していくことができます。
シニアの雇用支援
超高齢社会を迎えた日本ですが、必ずしもネガティブな要素だけを含むとは限りません。厚生労働省のデータによると、人々の平均寿命は伸び続けています。また、それだけでなく同時に「健康寿命」も年々上昇傾向にあります。まだまだ働ける元気なシニア世代を雇用支援することは、シニア世代の生きがいの創出につながることから、ウェルビーイング経営に当てはまります。シニアの雇用支援は民間企業だけでなく、行政においても重要視されています。登下校の児童の見守り隊への配置など、地域社会全体でシニアを取り組む動きが見受けられます。
職場環境の改善
休憩・リフレッシュスペースの設置、施設内禁煙・分煙の徹底、コミュニケーションツールの導入など、物理的な職場環境を改善することもウェルビーイング経営と言えます。例えば、休憩・リフレッシュスペースの設置は、従業員同士のコミュニケーションのきっかけになると予想されることから、間接的にウェルビーイングを促進していると言えますね。
福利厚生の充実
「従業員家族のサポート」「男女参画の推進」を内包したより広範囲なものですが、有給休暇や育児休暇制度など、社内の福利厚生を充実させることは堅実で効果的なウェルビーイング経営の形です。
働いて、笑顔になれる社会へ
ウェルビーイングの概念を知ることで、「健康=病気ではない」という単純な式はもはや成り立たないとういうことが理解できたかと思います。生きていく上での目標、仕事のやりがい、そしてコミュニティでの交流などなど、、、私たちが人間として持続的な幸せを感じるためには多面的に、かつ複合的に満たされている必要があるようです。
なんだか人類の思考レベルがどんどん上がっていっていますね、、、
(狩りのことをだけを考えていた縄文時代に行ってみたいなぁ)
これまで触れてきたように、社会全体としてウェルビーイングの実現に取り組むことは、企業にとっても社員の幸福度向上だけでなく、生産性向上や人材獲得、定着率の向上など数々のメリットが期待できます。
働く上で、一人ひとりが多様な価値に沿った働き方を実現し、幸福を感じ続けることができる。そんな社会にしていきたいですね。