フレイルについて
超高齢社会を迎えている日本において、介護は昔よりも身近なものになったのではないでしょうか。今回は、そんな介護に関係する「フレイル」というものに焦点をあて、フレイル予防に役立てられているIT技術を取り上げていきたいと思います。
フレイルとは?
フレイルとは、もともと「か弱さ」や「こわれやすさ」を意味する言葉です。介護用語では、健常な状態から要介護状態になるまでの中間の段階を表す言葉として用いられています。フレイルは、努力次第では身体機能や認知機能などを回復させることができると言われていますが、一度陥ると脱却することが難しいこともまた事実です。
フレイルの原因は?
フレイルはさまざまな要因によって生じる多要因症候群です。フレイルを引き起こす主な原因には、身体的なものと環境的なものがあります。
身体的原因
身体的原因は疾病と老化の2大原因に分けることができます。1つ目の疾病では、もともと患っていた糖尿病や高血圧などの持病が進行することで生活機能が低下し、フレイルに陥ってしまいます。このケースでは、65歳の時点で既に生活習慣病が重症化していることから、早くにフレイルを迎えて要介護となる確率が高いと言われています。
2つ目の老化に関しては、老化により認知能力・筋力の低下などが起こり、フレイルに陥ります。老化には様々な特徴がありますが、中には口腔機能の低下により低栄養状態なるケースなどが報告されています。
環境的原因
【心理的なもの】
閉じこもりや鬱などの精神・心理的な衰弱もフレイルを引き起こす主な要因です。高齢期には、友人や家族が亡くなったり、今まで当たり前にできていたことができないなど、喪失体験が増えるため、心理的なダメージを負いやすくなります。孤立してしまうことで外出が減って歩行困難を招いたり、認知機能が低下して生活機能全般が低下するといったことが起きてしまいます。
【社会とのつながりの希薄化】
定年退職などを経て、他者と関わる機会が減少することでもフレイルを引き起こします。社会とのつながりが少なくなることだけが大きな要因だとは考えにくいですが、身体的な要因と相まってフレイルの進行をさらに加速させてしまうと言えそうです。
社会とのつながりの部分はとても大事なポイント!
この後の内容でも触れていくよ。
コロナ渦が原因で起きるフレイル
上記ではフレイルが起きる主な要因について触れてきましたが、近年の新型コロナウイルスの影響で新たに「コロナフレイル」という言葉が生まれました。コロナフレイルとは、コロナ渦の活動制限またはウイルスへの感染によってフレイルが引き起こされてしまうことを表します。
【コロナフレイルでの悪循環】
- コロナ渦で活動制限
- 活動量が減る
- 社会との繋がりが無くなる(孤立)
- さらに活動量が減る
- 活動量が減ることで、食欲が減る
- 筋肉力が減り、基礎代謝も落ちる
- 体力が無くなり、外出しなくなる
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上記のように、身体的な要素と、社会的(環境)な要素によって生まれた心理的な要素も相まって、悪循環に陥ってしまいます。
フレイルを防止するためには
フレイルを防止するためには、生活習慣病などの疾病の(進行)予防をしながら、運動機能・認知機能を保ち、社会との関わりを保ち続けることが大切です。具体的には、持病のコントロール、感染症の予防、運動、バランスのよい食事、口腔ケア、社会とのつながりを保つなどなど、、考えたらきりがないほど出てきます。フレイルは多要因症候群であることから、広い視野を持って気を配っていく必要がありそうです。
ITの活用
フレイルを防止するために意識する項目は複数あり、自分自身で全て管理して予防することは現実的ではありません。身近にいる家族ですらフレイルの症状を発見することは難しいかもしれません。今、社会ではフレイルを予防・発見するために、ITの活用が着実に進められているようです。
食事管理アプリ
アプリが1日の摂取量や栄養バランスなど食事面でのアドバイスをしてくれます。バランスよく栄養を取ることができるように補助することで、フレイルを予防する狙い。中にはスマホカメラで撮影しただけで総カロリーを計算してくれるものもあります。東京都健康長寿医療センター研究所が開発した「食べポン」というアプリでは、10種類の栄養素の管理だけでなく、シェア機能を搭載することで他者とのつながりも感じられるように工夫がなされています。
AIによるオーラルフレイルチェック
AIロボットとの対話を通じてオーラルフレイルチェックや口腔機能トレーニングを提供してくれます。また、このようなAIによる診断機能を活用した健診システムも存在します。健診データはエクセルなどの従来の情報記録方式ではなく、クラウド上に集約、システムで管理されることから効率的な運用が可能となります。今後は基礎自治体における定期健診で活用が進みそうですね。
歩行動画解説
歩行している様子を撮影することで、AIが転倒リスクを分析してくれます。また、歩行時のクセや体重のかけ方などを分析し、その人に合った運動メニューを提案してくれるアプリが登場しています。
行政におけるフレイル防止のためのIT活用例
近年では、地方自治体においてITを駆使したフレイル防止への取り組みが活発化しています。
フレイルの予防は、医療費や介護給付費の抑制につながるから行政も力を入れているんだよね。
■松本市
長野県松本市では、民間の電力会社と連携し、電力の使用状況によりフレイルを判断できる検知技術の実証実験に乗り出しました。この実証実験では、すでに各家庭に設置されている電力メーターからの情報でAIが行動パターンを分析するのだとか。予防が必要だと判断された家庭には地域の支援センターと連携し予防対策が取られます。また、松本市では、これだけでなく高齢者向けの介護予防アプリの開発にも力を入れているそうです。このアプリでは、下記の6つの要素が盛り込まれており、介護予防の効果が期待されています。
①散歩コースの設定
②体操動画の視聴
③AIカメラによる食事の栄養チェック
④健康チェック
⑤脳トレゲーム
⑥コミュニケーションツール
■調布市
東京都調布市では、スマートシティプロジェクトの一環で、デジタル機器を活用した高齢者健康増進事業に取り組んでいます。この事業では、“つながりの創出”を目的に掲げ、デジタルデバイドの解消に取り組むことで、誰一人として取り残さない地域社会を目指しています。また、調布市の特徴としては、デジタルのみにシフトするのではなく、リアルとオンラインをあえて組み合わせることで強靭な地域コミュニティの創出をめざしている点にあります。
具体的には、参加者にタブレット端末を貸し出してオンラインでの体操教室を開催したり、多世代交流拠点となる多機能型の施設(デジタルリビングラボ)を建てて、ICT教育の拠点や高齢者の活躍の場を生み出す取り組みをしています。このようにデジタルリビングラボは、あらゆる地域住民が協働して地域課題を解決する場となっているようです。
「つながり」という軸をもってリアルとオンラインを組み合わせているのが素敵だね。地域での協働は高齢者にとって社会とのつながりにもなるし、いいこと尽くしだね!
ITの活用でフレイル予防をもっと簡単に
少子高齢化が進む現代では、少ない数の若者で多くの高齢者を支えていかなければなりません。そのためには、IT技術を上手に活用してフレイルの予防に努め、一人でも多くの元気な高齢者とともに持続可能な社会を創り上げていく必要があります。これからますます身近な話題になりそうな「フレイル」ですが、自分自身や家族うちだけで抱え込むだけでなく、社会社会とのつながりを意識してみんなで取り組んでいきたいですね。